エゴデスと統合失調の関係について聞かれたことが何度かあります。サイケデリックスによる自我の崩壊(エゴデス)は統合失調に似ている部分があります。
(狭義のエゴデスは基本的には神秘体験だとされており、トリップする者の一部しか経験しませんが、広い意味でのエゴデス、つまり自我変容体験はトリップ全般に現れます)
統合失調とトリップの類似点を挙げていこうと思いますが、先に統合失調の基本について軽く説明します。
統合失調はもとは分裂病と呼ばれていました。どちらの名前も病状を的確に表しています。自我が分裂するので「分裂病」であり、自我やさまざまな概念の統合が失調する(理解できなくなる)ので「統合失調」と呼ばれます。
この精神病は基本的には自我障害として定義できます。「頭がおかしくなった」のではありません。どれだけおかしく見える患者も、内的生活を持っており、様々な思考や感情に葛藤し戦っています。
発症
統合失調がなぜ発症するのか完全には理解されていないが、複数の条件が重なる必要があるらしい。 遺伝だけでは発症しないし、ストレスだけでも発症しない。それらの組合わせが原因になるという。
ストレスは発症の「きっかけ」だが、「原因」ではないとされている。引き金としてよく知られているのは性的な体験(初の性交、失恋や婚約など)、環境の大きな変化(妊娠や出産、親からの独立や職業選択、時に長めの旅行など)。親との葛藤(特に同性のほうの親と)。
サイケデリックスの摂取も大きな引き金で、統合失調の遺伝子を持っている人はサイケの摂取で発症してしまいます。
これらの引き金になる出来事は、ほとんどが「自我形成の不安」や「自我形成を妨げるものへの不満」と関わっています。つまり、自分が誰か分からなくなっているのです。統合失調は自我障害ですから、自我と強く関わるような出来事と関係があると考えて間違いはないと思います。
「一般的に言って、彼ら(発症者)に特徴があるとすれば、今住んでいる世界(家庭であれ集団であれ世間一般であれ)に少し批判的で、世俗的な価値や秩序から多少とも距離を取ろうとする傾向があることです。それでいて、他方に簡単に自立できない条件があって、いつもフラストレーション(欲求不満)を感じている。冒険的な一念発起も、超越体験への没入も、ときには触法行為への発散すら、そういうフラストレーションの、少しばかり不器用な解決策と見ることができます。」(引用&参考文献「精神病」笠原嘉/岩波新書)
精神分析や瞑想などでも発症するケースがある。「心理療法科が(患者の)精神に介入すると、潜在的な精神病を刺激し、顕在化させてしまう」ことがある(ユング「心理療法論」)。
またネットでは、特殊な呼吸法や瞑想方法で意識を変容させていたら統合失調を発症したと書き込んでいる人もいます。
サイケデリックスも含めて、これらの発症原因に共通することは意識変容、意識拡張であること。意識拡張とは無意識内容を意識に取り込むことですが、ユングによると"(遺伝的な)先天的な弱さ"から、取り込まれた集合的無意識の内容に圧倒されてしまうと、統合失調になるという。
統合失調者は重症なほど精神が退行し、原始的または幼児的なものに近づいていくが、これはまさに集合的無意識が精神の最も原始的な層だからと考えることができる。
サイケデリックトリップなどで頭がおかしくなって、「戻ってこれないのではないか」と不安になる人は多い。ほとんどの人は戻ってこれるが、遺伝的な原因で「戻ってこれない」人が統合失調になるのだと考えます。自我を一度バラした後に元に戻す能力が脳/精神にあるかどうか、ということだと思う。(ただし、けっして統合失調がトリップと同じわけではないので過剰に同一視されないようにご注意願いたい)
薬物療法
現在統合失調は薬物療法で治療されます。統合失調に使われる抗精神病薬は幻覚剤の「落とし」としても使えるので、これも統合失調とトリップの似ている点を証明するものかと思います。
最初に開発された(偶然の発見)のはクロルプロマジンで、日本ではコントミンという名で発売されています。その後続々と新薬が開発されています。これらの薬の主な作用機序はドーパミン受容体の遮断だとされています。もちろん副作用も多いです。
ドーパミン受容体の遮断で症状が緩和されるために統合失調はドーパミンの過剰な活動が原因の一つだと言われておりますが、決してドーパミンの過剰活動だけで説明がつくわけではありません。第二世代以降の薬はセロトニン受容体とも関わるものもあります。
再発
一度発症して、ある程度症状が治った後も、今度は再発を防止するという課題があります。再発をいかに防止するかという問題にも精神科医たちは取り組んできました。基本的には、服薬を勝手に中断しないことが大事だと言われます。抗精神病薬は、陽性症状を抑えるだけでなく、再発を防止するために飲み続けます。
再発は、初回発症の時と比べると、特異性のない出来事でもきっかけになることが知られています。発症原因になる閾値が下がっているような感じです。
「日常的な世界からの出立、非日常的・超越的テーマへの接近、それらによるある種の高揚感」・・自我を分解するような哲学的思考も再発の原因になる?
社会が原因?
原始的社会では精神病が著しく少ないことが知られています。心を病む人は近現代に急増しました。
時代や社会背景、国民性などによって神経症や精神病の発症比率はかなり変わってくるようです。
統合失調は19世紀以降爆発的に増加したと言われていますが、人々が普遍的なもの(宗教や民族性など)から離れて「自分だけの自我」を確立しようとする時代に突入したことと関係があると思われます。
原始的な生活をしている部族人は、現代人(特に若者)が抱える不安や欲求不満を経験しません。彼らは一度失敗すると取り返しがつかない学歴やキャリアを築くための激しい受験戦争や新卒採用の嵐に巻き込まれることもなく、ただ単一の価値に従って生きていくだけで済んだので、精神が「分裂」するはずがありません。
理想の自己と実際の自己が離れるほど「分裂」が生じます(必ずしも常にこれが統合失調の原因だというわけではないが、無関係ではないはずだ)。原始的な人間はそもそも理想の自己など持っておらず(または最初から実現しており)、そのため理想と現実の乖離もないのです。
陽性症状と陰性症状
「陽性症状」は、幻覚や幻聴、思考の混乱、妄想や異常行動に特徴付けられます。
陽性症状は「ないはずのものがある」という風に説明されます。ドーパミンの過剰によるものとして説明できるのが多いと思います。ドーパミンは自分にとって大事なものを指し示すサインのように働きます。例えば、ある紙に知らない名前がたくさん載っていても、あなたはそれが重要に感じませんのでドーパミンの強い反応は生じません。ですがもしその中に突然友人の名前を見つけたり、自分の名前を見つけるとドーパミンが放出され、あなたは少しは「意識が覚め」、自分にとって「大事なもの」に反応するという寸法です。なのでドーパミンが過剰に活動していると、あなたは自分と関係ないものを自分と関係あると感じてしまうでしょう。テレビを見ているときそれが自分についてのニュースだと思ったりしてしまいます。ドーパミンの反応がそう感じさせ、確信させるのです。「これは大事だ!自分についてのことだ!」と。
「陰性症状」は主に無気力、無関心、引きこもりが見られます。「あるはずのものがない」と説明されます。陰性症状はドーパミンの過剰ではなくドーパミンの不足によるそうです。
妄想
統合失調者は「完全な狂気」に陥ることはないとされています。彼らは現実と無関係な妄想世界を持っていながら、同時に現実世界にも生きており、精神科医はこのことを「二重帳簿を持っている」などと表現しています。
一部の患者は薬を飲んでも妄想は残ります。その妄想は患者を「支える」ような内容であることが多いです。自分がノーベル賞級の発明をしたとか、絶倫でモテモテだとか、どこかの王子だとか、大女優の娘だとか、本人の価値を高めるものが多いです。
空間認識、非現実感
セシュエーの「分裂病の少女の手記」はかなりの名著です。分裂病経験記を読みたければ大いにおすすめします。
「分裂病の少女の手記」で少女ルネが最初に経験したのは空間認識の変化と非現実感でした。
分析系でない医者はこのような空間認識や非現実間にほとんど注目しません。ただ「幻覚」みたいな一言で片付けてしまうこともあるでしょう。セシュエーは精神科医ではなく精神分析家(フロイト流の心理療法家)なので、心理−哲学面が弱いことが多い一般の精神科医よりはるかに統合失調の内的体験を理解していました。
ルネは近くに来るものが大きくなるように見え、離れていくものが小さくなるように見えたことを報告します。これはよくトリップでも観察されます。動いている車が変形しているように見えたりする。また地図が読めない、方角が分からない。空間認識能力がなく、したがって空間認識が必要な行動はほとんど出来なくなる。自分の向いている方角が変わると月の位置が変わることも理解できず、月が動いていると思っていた。ルネは学校では成績優秀でしたが、分裂病になってからは描画などの空間認識能力が必要な科目はどんどん出来なくなっていき、成績が落ちていきました。
トリップの場合、空間認識の変化が一種の神秘体験として経験されることもあります。自分が宇宙の中心にいるとか、宇宙の全てがここにあるとか、あらゆる距離が失われた感覚。しかしこれはとても恐ろしい体験になることもある。
空間認識能力の変化は自我崩壊の始まりを示すものとして考えることが出来ます。一見、空間認識は自我と関係ないようにも思えますが、目の前のものと自分との距離や関係性を把握するのは自我にとって必須の機能です。自我は身体なくして存在し得ず、身体は空間なしには存在し得ないからです。自我は、空間の中で自分がどこにいるのかを知っていなければ機能しているとは言えません。
セシュエーによると・・「非現実感の原因は自我そのものの変化にある」
「疎遠感は自我の解体の最初の兆候と見做すことができよう」
「この知覚の混乱は自我の綜合と統一との喪失の知的な形態である」
自我はどこからどこまで、そして何が「自分」であるかを決定するわけだが、この機能は同時に何が「現実」で何が「現実でない」かをも決定しているともいえる。自我に属したことがないものは非現実なのだ。なので自我の崩壊が進むと進むほど体験は非現実的になり、「ありえない」ものになっていく。「ありえる」範囲というのは、自我が慣れ親しんでいる範囲のことだからだ。
無意識の侵入、投影
無意識内容が投影されるのは正常人にも常にあるものだが、それがより激しくなる。
無意識内容は外界に投射される。基本的に投影は自覚がないものなので、投影内容は自分ではなく外界の客体に属しているものに感ぜられる。
あらゆる幻覚症状は基本的には無意識内容の侵入として解釈できる。
代表的なのは「声」である。
幻聴、「声」
統合失調の幻聴の特徴(「精神病」笠原嘉より)
「1・聞こえるのは「人の声」である。
2・内容の一語一語ははっきりしないのに、意味は直感的に「一挙に」理解できる。
3・直接話しかけてきたり、噂をしたり、自分の行為のいちいちを批評したりする。
4・声は自分の考えや気持ちに強く影響する。無関心ではいられない。時には声の命令に(従うまいと思っても)従ってしまう。
5・普通では聞こえないはずの遠いところからでも聞こえる(例えば、何百メートルも離れたところから)。なにかしら地上性をこえた「超越性」を帯びている。
6・とてもとても不安で、世間に対して身構えしてしまう。
このうち、とくに外の力で自分が「影響される」という4の感じが苦しいものなのです。」
統合失調の場合その内容の多くはいちいち自分の行動を批評したり自分を責めるもので、重症化すると自害を勧めるものになり、逆らえないほどの命令になっていく。声の命令は自我の主体性を脅かす。自我本人がやりたくもないことをやれと命令する。
自我という視点で見た場合、声の正体は自立したコンプレックスまたは分裂した自我である。
少女ルネは声に従うことに関する葛藤を記録している。彼女は「組織」の存在を妄想しており、幻聴の命令は「組織」から来ると確信していた。「組織」は彼女に手を焼けという命令をしていた。声に従わないと自分が「不正直」であるように感じてしまう。だが声に従っても同様に「不正直」になってしまう。なぜなら声の命令は自分の意思ではなかったからだ。命令に従っても従わなくても苦しみ、ひどく悩む。まさに自我が分裂しているのだ。
声の命令に従うのは症状が重度化した場合のもので、軽度の段階では声に抵抗できる。基本的に患者は声に抵抗しようと必死である。
以前Youtubeである北米の統合失調の若者の動画を見ましたが、その中では若者は幻聴を聞かないために音楽を聴くのは効果があると言っていました。彼はあるとき携帯電話を出したら驚いたように投げ捨てましたが、あとになってその携帯が"kill your self"(自殺しろ)と言ってきたと言いました。「声の言うことには従わないようにしている。それがいいことだと・・思う」。
このような声の命令はサイケデリックトリップではほとんど見られない。
トリップでの「声」は知識を授けるものであることが多い。テレンスマッケナはマッシュルームが「べらべらと喋る」ということを言っている。マッケナによるとLSDは喋らない。キノコはハイドースになると本当にべらべらと喋るということをマッケナは何度も言っている。
ハイドースのトリップでは声はかなり超越的に感ぜられ、神からのメッセージのようにもなる。
統合失調の幻聴の分類
・対話性幻聴:会話が聞こえる。
・注釈幻声:自分の行動を声が逐一説明してくる
・考想化声:自分の考えたことが声になって聞こえる
・命令性幻聴:命令してくる。命令に従うまいとしてもしたがってしまうと、「作為体験」または「させられ体験」と呼ばれますが、これが最も苦しい症状の一つです。
このような幻聴はサイケデリックトリップではあまり見られません。
思考障害
以下はあるウェブサイトを参考に、統合失調の症状をならべていきますが、トリップでも同じものがみられるか見てみます。
・思考途絶:なんのきっかけもなく思考の流れが急にとまり、考えるのを中断してしまう
これはトリップでもかなり見られる。
・思考抑制:考えるスピードが遅くなる
トリップでは早くなることの方が多いかと。
・「言葉のサラダ」:支離滅裂な文章を作る。言うことに一貫性がない。
これは酷くなってくると概念までサラダ化(?)し、独自に作った言葉に自分だけの意味を持たせて喋るようになる。こうなると他人とのコミュニケーションはほぼ不可能になる。
これはトリップで見られるかは分からない。
・支配観念:特定の考え方にとらわれてしまい、それ以外のことが考えられない
これはいわゆる思考ループとかバッドとリップに見られる。抜け出すのが難しい。
・観念奔逸:次から次へと考えが湧き上がり、話がどんどん脱線する。早口になる。
これは「ラリ」ってる感じですね。いろんなドラッグで見られるかと。
妄想の分類
・妄想気分:世界没落の予感など。セシュエーは分裂病世界の表現と呼んだ。不気味な不安感を伴う。統合失調者は日常世界の変化を「地動説」ではなく「天動説」的にとらえて、自分ではなく世界がおかしいと考える。
・妄想知覚:偶然の出来事に特別な意味があると感じる
これは(病的ではあっても)新しいつながりを見つける能力だとも言える。
・関係妄想:自分に関係がないものを関係があるように信じ込む
・被害妄想:些細なことを自分を貶める仕業だと思い込む。貧困妄想や疾病妄想もある。
これはボーダー気質の人など、自我が弱い人なら妄想とまではいかなくてもある程度は持っているものである。
・監視妄想:監視されていると思う。部屋に盗聴器が仕掛けられていると信じて探偵を呼ぶ人もいる。 注目されていると思う、世間が自分の話をしていると思うのもある。
・誇大妄想:自分を重要人物と思い込む。血統妄想、恋愛妄想、発明妄想など。
これらの妄想はトリップではあまり見られませんが、高いドースだと多少は現れるでしょう。
ひどいトリップでは恐ろしい被害妄想、周りの人が自分を殺そうとしているとか、自分が既に死んでいると思う妄想を報告する人もいます。
自我障害
自我障害は私が最も注目しているものです。自我障害は自我の崩壊のことです。
自分と世界の境目が曖昧になっている状態で、経験がない人には理解が非常に難しいものです。
「自分らの人としてのよりどころが失われ、外界と入り混じってしまうこのような感じは、精神病が急激に現れる時期には、病者にとってきわめて苦痛に満ちたものとして感じられることがよくあるのです」(セシュエー「分裂病の精神療法」)
・自我漏洩症状:自分の秘密が筒抜けになっていると感じる
プライバシーを守る自我の防壁が崩れている苦しい状態です。苦しいトリップでは少しばかり見られるかもしれない。
・思考伝播:自分の考えが周囲に広がっていると考える。思考の放送。
・思考奪取:自分の考えが他人に吸い取られる
これらは脳/精神が、どこまでが自分かを分かっていない。自我が崩壊しています。
トリップでこのような現象はあまり聞いたことがありません。
・操られ体験、被影響体験:何者かに操られている。
・侵入症状:他者、外界が自我の中に侵入してくるように感じる
これはあるトリップで経験したという人を聞きました。明らかに自分でない何か、悪意のある何かが自分に侵入してくる感覚。宗教的な人なら悪魔だとか言うと思います。
自我障害の例としていくつかのエピソードを紹介(セシュエー「分裂病の精神療法」より)
・トイレで小便をしているときに外で雨が降っていると、雨と自分の小便の違いが分からないので恐怖に襲われる。(自分の小便が降っているという不安か)
・看護師が風呂の水を流そうとすると、患者が言う、「お前が流そうとしているのは俺の小便の全部だ。私の身体には何も残らなくなくなってしまうではないか」
・患者:「喉が渇いたわ」治療者がいたずらに「でも私はさっき飲んだばかりです」というと、患者は「そうね、じゃあ飲まなくていいか」。
自分と他人の違いが分かっていない。
・「私の脚を包んでいるのが本当に毛布で、私がほんとうに私だと言うことを、誰が保証してくれるんですか?私がこの毛布じゃないっていう証拠は何もないんですよ!」
トリップにて自分がソファや床と同化した体験を語る人がいますが、似たようなものでしょう。自分と他人の違いが分からない体験を語る人もいます。
荒い記事でしたが、統合失調とトリップの類似について軽く理解することに役立てることができたなら幸いです。
追記:幻覚剤使用による統合失調発症のついて
これまでにネットで数人の方の話を聞きましたが、幻覚剤が原因で発症した統合失調と、幻覚剤が無関係の統合失調は症状が微妙に違うようです。
幻覚剤が原因の人は傾向として幻聴がないか、非常に少ない。幻聴の声に操作されるような体験もあまり報告されない気がします。
また発症するとき、明らかな陽性症状の急性期が来るというイメージがされるかもしれませんが、陰性症状がメインの人もいるようです。とくに軽度の陰性症状の人は自分が精神病になった自覚がほぼなく、単なる悩みある変な人ということになりがちですが、知識がある人がこういう人の話を聞いていけば思考が常軌を逸している、というのが分かってきます。
陰性症状には鬱状態や、思考障害、引きこもりなどが見られます。幻覚剤使用後に軽い陰性状態になって陰で悩んでいる人は意外といるようです。
陽性症状の場合、交信妄想などがあります。頭の中で神を飼っているという人に話を聞いたことがあります。彼女は「最初は幻聴だと思ったけど、神だと分かって安心した」という感じのことを言ってました(言うまでもないが妄想である自覚がないことが、妄想であることを物語っている)。私は「それは妄想だよ」というようなことを言わず、神とどんな関係を結んでいるか色々と聞き出しましたが、興味深いものでした。
はじめ神と聞いたときは宗教的で超越的なニュアンスを感じましたが、実際は宗教的な要素はほとんどありませんでした。神は500年前から世界を見下しており、世界に直接手を加えることはできないそうです。神は仙人みたいな老人の姿なのかと聞いたところ、正解でした。彼女が言うには、神はいろいろな姿を取れるので人々の神のイメージに合わせた姿を取っているだけだと言うことです。それで老人の姿になっていると。
彼女は抗精神病薬を服用していましたが、(どうやら多くの妄想がそうであるように)薬を服用しても神は居続けるようです。普段から神と会話しているそうで、その内容はありふれた他愛もないものが多いようです。ダイエット中だからそれは控えろ、のような助言をしてくれるようです。
つまり心理学的に言うと自我が分裂していると見ていいでしょう。神は彼女のもう一つの人格なのです。それが神という名で呼ばれているのは単なる偶然だと思います。少なくとも宗教学的な意味はない。聞いたわけではないですが、おそらく彼女は宗教の知識はほとんどない人だと察しております。宗教に傾倒している人の場合はかなり話が変わってくるのではないか、と思えます。
間接的に聞いた話では、幻聴の声を「手名付けて」、味方につけて、トリップし続けている人というのがいるそうです。不思議な話です。基本的には、統合失調になった人はトリップをやめた方がいいです。なので何人かにそのような助言をしたことがありますが、不満を持たれることが多いです。トリップし続けたい人が多いように見えます(ある統合失調者に、「まだやりたいんですか?」と聞いたら二度と返信が来なくなりました)。
もうたくさんだ、トリップする気はないという人ももちろんいますがね。
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