Logical Falacy ロジカルファラシー/誤謬、論理的誤謬

 誤謬(ごびゅう)とは、間違った論理の使い方を指します。
 
 ここで、よく見られる誤謬をいくつか紹介しようと思います。誤謬の理解は、議論時に相手の理論のどこがおかしいかを見抜くことにも使えますし、また自分の主張に潜んでいる穴も自覚する事が出来るようになります。このブログのメインテーマは薬物なので、薬物議論に潜む誤謬を例として出していきます。


 人身攻撃 Ad Hominem アド・ホモニム
  
 相手の人格や立場を攻撃し、議論の論点を逸らすこと。または相手が議論する立場にないとすること。
  反論のようで、実際には反論ではない。
 

 (例1)「法律を破ってる時点であなたに説得力はない」
 (例2)「薬物の合法化を支持しているなら、まともな人物であるはずがない。(よって彼の言うことを聞く義理はない)」 
 (例3)「所詮はドラッグやってるんだろ。(じゃあお前の言ってる事なんか間違いに決まっている)」
 (例4)「彼は教養がない。この件について語れる立場ではない」
  



 権威に訴える論証 argument from authority

 権威(政府や、専門家など)の主張する説が(無条件で)正しいとすること。
 主張の内容ではなく、「誰が言ったか」に焦点を当てている。
 権威が議論の主題について無知であることもあれば、専門家の間で議論が割れている事もあるので誤謬である。

 (例1)「政府が間違っているはずがない。従って厚生労働省の薬物説は確実に正しい。」
 (例2)「X大学の教授がこう言っていたので、正しいに決まっている。」
 →もちろん、権威が正しい時もある。真偽は、誰が言ったかとは無関係だということがポイント。



  衆人に訴える論証
 apeal to popularity

  広く受け入れられている理論が正しいとする誤謬。
 多くの人が信じている、と言うのは正しいと言う証拠にはならない。

 (例1)「違法ドラッグは一回の使用で依存する。みんな知っている常識だ」
 →常識というワードには要注意。議論の場では常識という考え方は誤謬に繋がりやすい。当たり前だと思う事もちゃんと証明しなければならない。



 感情に訴える論証 appeal to emotion

  名前の通り。聞き手の同情を利用して、自論を支持させようとすること。

 (例1)「薬物のある世界に生きたくはない。みんなそうだと思う。」
 (例2)「大麻を吸っても良いなんて、私は許さない。」
 →両方、何一つ論理的な主張はしていない。が、感情に訴える事で同意を得やすい。



 論点先取 begging the question

証明したい事柄が、前提の時点で正しいとする誤謬。
 
(例1)「ダメなものはダメ。」
 →なぜダメかの説明ではない。ここで証明すべき命題は「なぜダメか」であるはずだが、「ダメなものは〜」という問題提起の時点で、ダメなものがダメだという事が既に前提になっている。

 (例2)「大麻は危険です。違法な薬物なので、危険です。」
  →薬物教育で頻繁に見る誤謬。違法だから危険、危険だから違法、というループは、ある違法薬物が危険である事が予め前提となっており、何も証明していない。



 白黒思考 black or white falacy

 実際には3つ以上の可能性があるにも関わらず、白か黒か、あたかも二択の問題であるかのように扱う誤謬。

 (例1)「このドラッグは安全じゃないなら、危険だ」
 →あるドラッグが安全かどうかは二択の問題ではない。使用環境や使用方法など様々な状況で変わってくる。
 (例2)「植物ドラッグは安全だ。合成ドラッグは危険だ。」
 →これは過剰一般化バイアスでもある。
 (例3)「俺は何か間違った事言ってるか?(具体的にどこが間違っているか言えないなら、自分の主張は正しい)」
 →間違っていなければ正しい、とはならない。二極の問題ではなく、中間がある。これは保守的な権威主義者(いわゆる老害)が良く使う論理。
 


 チェリーピッキング Cherry picking
 さくらんぼ狩り。
  都合の良いデータや情報だけを引用し、都合の悪いデータや情報に触れない事。
 また、文脈を無視した引用で、本来の主張を真逆に解釈すること。

 (例1)「この論文によると、大麻は危険だ。」
      (例2)「この薬物解禁論者は、本当は大麻が危険であると認めている!(文脈を無視した引用と共に)」
 チェリーピッキングを見抜くにはソースを念入りに読む必要がある。また、反証するものがないか、広いデータベースを満遍なく調べる必要があるので、誰でもパッと見抜けるとは限らない。


 陰謀論者はチェリーピッキングのプロである。大衆は自分でソースを調べないので、チェリーピッキングに気づかない。一見、まともなソースがあるように見える情報でも、元々のデータの拡大解釈や、全体を無視した部分的な引用である時がある。
  




 ストローマン論法 straw man

 ストローマンは藁人形。相手が立っていない立場をでっち上げ、本来していない主張をしているとして攻撃すること。相手の主張を湾曲して、その湾曲した主張に反論する誤謬。意識的にやっている時もあれば、誤解から生じる事もある。

 (例1)「Aさんは、薬物の合法化を支持しているらしい。つまり、国を破滅させたいんだ。そのような考えは断固拒否する。」
 →Aさんは薬物の合法化を支持しているが、「国を破滅させたい」とは一度も言っていないし、そのような立場はとっていない。なのでAさんの主張が湾曲されている。







あるウェブサイトを大いに参考にさせていただきました。ありがとうございます。


実践編

以下は実際にtwitterで発言された、反薬物意見です。
これを練習問題として利用してみましょう。この中にある誤謬を全て見抜いて下さい。

『アルコールや煙草との比較による相対的な有害性の低さは、大麻解禁の理由には何一つならないんだよなぁ。じゃあ水みたいに無害なのかって言ったらまったくウソだし。有用性(医療大麻)があるって言ったらさらにウソだし。いまのところ解禁を推す人たちの論理には首肯できる部分がありません。

 
アルコール・煙草vs大麻の相対的な有害性を持ち出すなら、「大麻の解禁」ではなく「それよりもっと有毒なアルコールと煙草の禁止」しかない。有害性はアルコール・煙草が100で大麻が1だとしたら、100に加えて101にする社会的理由はまったくない。100を0にしようってなら話は分かる。

それでも酒と煙草が現代社会で法的に認められているのは、近代社会が始まる前から既に排除しがたく食い込んでしまっているので「仕方なく」今のところ許容しているにすぎず、アメリカで相次ぐ大麻の合法化もこれに近い(もう蔓延ってしまっているので追認してコントロールする)』

 




解答
 
 
アルコールや煙草との比較による相対的な有害性の低さは、大麻解禁の理由には何一つならないんだよなぁ。
→確かにならない。どちらというとアルコール規制の理由になる。

 じゃあ水みたいに無害なのかって言ったらまったくウソだし。
→特に論点が見つからない主張。(つまり、だから何?)

 有用性(医療大麻)があるって言ったらさらにウソだし。いまのところ解禁を推す人たちの論理には首肯できる部分がありません。

→有用性に対する無知は単なる「無知」であり、無知は「論理的誤謬」ではないので、 ここは何もいえない。
 しかしこれが解禁を推す人の唯一の論理であるかのように言うのは、相手側の立場を捻じ曲げており、ストローマン論法であるとも言えるでしょう。大麻解禁を支持する理由はたくさんあり、ここで取り上げられている相対的無害論はその中のほんの一つにすぎない。

 アルコール・煙草vs大麻の相対的な有害性を持ち出すなら、「大麻の解禁」ではなく「それよりもっと有毒なアルコールと煙草の禁止」しかない。
→そうかもしれない。

 有害性はアルコール・煙草が100で大麻が1だとしたら、100に加えて101にする社会的理由はまったくない。100を0にしようってなら話は分かる。
→非常に穴だらけの主張。
「人々が受ける害の総量」は、「使用が許可されている薬物の種類の総量」ではない。大麻解禁を、ただ単に「害を上乗せするもの」として捉えるのは、現実世界で起こる実際の出来事の複雑さをかなり単純化している。
 例えば、大麻解禁でアルコールやタバコを使わなくなる人もいる。そのような人々が受ける害は、この計算では本当に101か?いや、1になるだろう。
 そしてハームリダクション論についても言及しなければならない。違法薬物の危険性は、そもそも違法である事が原因である事が多く(安全な摂取方法や使用容量の教育、闇市場の低品質等)きちんと国家で規制管理すれば薬物による害が大幅に軽減できる。つまり同じドラッグであっても合法であるか危険であるかで害が変わってくるのだ。(アラブでは密売の低品質アルコールで死ぬ人がいる事を考えてみると良い)。
これは誤謬で言うと、false analogy (誤った類推)と言ったところだろうか。


 それでも酒と煙草が現代社会で法的に認められているのは、近代社会が始まる前から既に排除しがたく食い込んでしまっているので「仕方なく」今のところ許容しているにすぎず、
→元々合法だったメタンフェタミンやヘロインは?


 アメリカで相次ぐ大麻の合法化もこれに近い(もう蔓延ってしまっているので追認してコントロールする)
→これも事実の単純化。というか、ただの無知か。